第一回YKOダンスカンパニーワークショップ(レポート

(2012/4/7)

 

YKOダンスカンパニーが七ツ寺のレジデントカンパニーとなって初めてのワークショップが4月7日(土)に開催された。 



以下にその模様をまとめる  

参加者は9名。ダンスワークショップだが、俳優や美術関係者など顔ぶれは幅広い。参加の動機も「アートのWSで鈴村さん、杉町さんと一緒になる機会があり、興味を持った」「去年まで名城大学演劇サークルに在籍していた。体についてもっと知りたい」「去年演劇教室に参加して、今年から非常勤の美術講師をしている。教室に入る前に演劇、ダンスのどちらを習うか迷ったこともあり今回参加した」など様々。

始めに自己紹介があり、引き続き行われたのはセルフマッサージ。足の裏などの末端から順番に痛いところ、固いところをチェックしていく。
鈴村によればこれは単なる癒しだけでなく、自分の体との対話が目的なのだという。揉んだり叩いたりする際に「イメージを持つことによってよりほぐれる」とのアドバイスがあったのが、なるほどよくこの目的に適っていると感じさせられた。この間すでに参加者とカンパニーメンバーの会話もひんぱんに交わされ、その場にいる人たちが徐々に一つの輪になっていくようだ。とても気持ちの良い導入である。

このように体を目覚めさせ、ゆるやかな関係性ができたところで、全員で舞台上を歩く。始めはゆっくりと丁寧に。やがて鈴村から指示が出る。参加者は「体を開いて(意識を外に向ける)」歩いたり、「閉じて(内に向ける)」歩いたり、空間を広く取ったり(物理的に)、狭く取ったり、個々の体やその場の状況を様々に変化させることにより、歩くという行為の感触が大きく変わることを確かめる。
ここまで丁寧に確認をしたところで、今度は走りながら空間を広く取ったり、狭く取ったり、少し大胆に動き、その中でも体や周りに対する感触を離さずに持ち続けられるかを試す。リラクゼーション的なメニューから、少しずつ自然にダンス的な動きにその場が変わっていく。
再び歩行に戻る。が、単なるリセットではなく、鈴村から次の指示が出る。参加者は瞬間的に止まり、目を閉じる。そこで鈴村が指名した人を指ささねばならない。これを何度か繰り返す内に、外側に対する意識が強められていく。次に同じことを声を出しながらやる。声の続く間歩き続け、出し終わりで止まる。「アー」「ウー」、高い声、鼻に抜ける「ンー」など様々な声を出してみる。声と体の波長をしっかり合わせる、短い声なら動きは小刻みに、長い声ならゆったり、というように。これにより、内側への意識が高められる。しかしこの間も、「止まったら指さし」の指示がしばしば出されるので、外への意識もより強まっていく。
マッサージから一貫して、外と内への意識を同時に高めることにより、その場の空気がどんどん色濃くなっていく。それはまるで生き物が進化する様子を見ているようだった。それでいて参加者は緊張を強いられることなく、その空気を楽しんでいるのが印象的だった。

 

さて、休憩をはさんでスタートした後半は、一転して絵を描くという意外な作業から始まる。参加者はペアをつくり、お互いの絵を描きあう。描く前に鈴村からいくつかの留意点が出される。「具象ではなく、抽象で」「なるべく色を使う」「形よりはラインを大切にする、生き生きと」-つまりは模写ではなく、相手の体から受ける印象をスケッチすることが目的なのだ。
絵が描きあがったところで、その絵を見ながら交互に体を動かしてみる。他人から自分がどう見られているかを、言葉でなく伝えられるのはおそらくめったにない体験だろう。ましてその印象をもとに踊るなどとは。参加者はゲームのように、私はどんな人間なのだろう?という問いを楽しんでいるように見えた。そしてどの動きも、まぎれもなくその人にしか踊れないダンスであったと思う。

どうやらここまでのワークは鈴村にとって予想以上の成果を上げたようだ。参加者が絵をどのように動きに変換したかを聞き取ったあとで、「実はやる予定ではなかったのですが、少し欲張ってみたくなりました」とニマニマしながら次の課題を切り出した。それは「とらえたイメージをより深く感情にまで落としこむ」というものである。感情というのがミソで、脳みそで処理せず、腹まで落としこむことが重要とのことである。
やってみると明らかに動きの質感が変わる。同時にその場の空気がより緊密に、濃くなったのがとても興味深かった。これは鈴村を一層喜ばせたようで、「絵を対象として捉えるのではなく、自分と重ね合わせて動く」という次なる課題が出される。
3つの段階を経て、目に見えてその場の色が変わっていく。特に印象的だったのが、習いたてのクラシックバレエの動きをしていた参加者の1人が、段階を進むにつれナチュラルな動きに変化していき、それにつれてどのような饒舌な自己紹介よりもその人となりが伝わって来たように思えたことだ。

最後にそこで起きたことを全員でフィードバックしてワークショップは終了。スタートしたばかりのカンパニーの色々な可能性を感じさせる、楽しく濃密な3時間であった。
                                  文責 寂光根隅的父